※本コラムは2025年4月28日に実施したIRインタビューをもとにしております。
アグレ都市デザイン株式会社は用地仕入れから設計・施工、販売、アフターサービスまでを自社一貫体制にて手がけ、高付加価値の戸建住宅を提供しています。
代表取締役の大林 竜一氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。
アグレ都市デザイン株式会社を一言で言うと
愚直に高品質を追求する住宅会社です。
アグレ都市デザインの沿革

創業の経緯
独立前は上場企業の不動産デベロッパーで営業部門を統括し、経営にも携わっていました。
順調にキャリアを積んでいたのですが、ある経営方針をめぐって会社と意見が対立し、次第に社内での立場が難しくなっていきました。
その後、会社の経営体制が大きく変わり、住宅事業の縮小が決定。
私自身も独立を視野に会社を離れることになりました。
そのタイミングで多くのものを失うことになり、正直、精神的にも経済的にも厳しい状況でした。
折しもリーマン・ショックの傷跡が癒えない時期で、資金調達が極めて厳しい環境にあったものの、みずほ銀行さんが「起業されるのであれば全力で支援します」とたいへん心強い言葉を掛けてくださいました。
その一言が大きな後押しとなり、私は腹をくくって当社の設立を決意した次第です。
戸建て住宅に注力した理由
戸建て住宅を手がけようと決めたのは、エンドユーザーであるご家族と直接向き合える喜びが大きかったからです。
一生に一度とも言われる大きなお買い物をお手伝いし、完成の瞬間にあふれる笑顔を間近で拝見すると、この仕事の意義を強く実感いたします。
もう一つの理由は、起業時でも比較的少ない資金で挑戦できた点にあります。
当時は「銀行が融資など無理だ」と周囲から懸念の声もありましたが、みずほ銀行さんをはじめ数行が私たちの理念に共感し、力強く支援してくださいました。
何の実績もない新規に設立した法人ですから、バランスシートにあるのは資本金と現預金だけです。
こんなシンプルなバランスシートであっても、前職で築いた信頼関係のおかげで、リーマン・ショック直後という厳しい環境下で融資を受けることができたのです。
また、創業当初から「施工は必ず自社で行いたい」と考えていました。
木造住宅では、図面に描き切れない細部を現場で判断する場面が多々あります。
外部に施工を委託すると、その微調整に目が届かず、結果としてアフターサービスの品質にも影響しかねません。
お客様に長く安心して暮らしていただくためには、自社で品質をコントロールできる体制が不可欠でした。
その取り組みを後押ししてくださったのが、伊藤忠建材さんや青梅トーヨー住器さんをはじめとする大手建材メーカーの商社や協力会社の皆さんです。
支払い条件の緩和など、当社が資金負担を抑えられるような配慮をいただくことで、確かな品質の資材を確保することができました。
こうした数々のご支援を礎に、私たちは戸建て住宅の分野で着実に成長してきました。
これからも「お客様の喜びを最優先に」という創業時の思いを胸に、住まいづくりに真摯に向き合ってまいります。
新領域への挑戦
住宅事業から出発した私たちは、2019年にアセットソリューション事業部を立ち上げました。
創業以来、培ってきた不動産情報網がこの分野でも生かせると考えたのがきっかけです。
私自身、前職時代から投資物件に携わっておりましたので、過去の経験で得たノウハウをアップデートしながら事業を推進しています。
さらに、2023年末には宿泊施設のコンサルティングを手がけるハウスバード株式会社をグループに迎え入れました。
同社は、“1日から貸せる家”をコンセプトに、クライアントさまが所有する空き家や別荘等を旅館として運営するまでをサポートするコンサルティングが主な事業です。
日本全国が対象で、企画からマーケティング、開業に至るまでをワンストップで支援しています。
今後はコンサルティングにとどまらず、施設運営への取り組みをブラッシュアップさせていく体制づくりが大きなテーマだと捉えています。
アグレが持つ不動産情報や設計、施工の分野とハウスバードの宿泊施設に関するノウハウを結合させ、うまく相乗効果が生まれれば、当社にとって大きな転換点となるでしょう。
これまで私たちは居住用物件を中心に歩んでまいりました。
宿泊施設は住宅との親和性がありながらも異なる世界ですから、決して簡単な道ではありません。
それでも挑戦を続け、「不動産の販売一辺倒」と見られがちだったアグレ都市デザインが新たなステージへ踏み出す姿をお届けしたいと考えております。

アグレ都市デザインの事業概要と特徴
概要
私たちは自社ブランド「アグレシオ」シリーズを軸に、用地仕入れから設計、施工、販売、さらにはアフターサービスまでを一貫して行う戸建住宅事業を展開しています。
近年は多様化するライフスタイルや価値観に対応するため、環境性能や快適性を高めた住まいづくりに注力してまいりました。
ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)仕様の住まいづくりや電気自動車用充電コンセントの標準設置を推進しています。
さらには、太陽光パネルを搭載した蓄電池付き物件の分譲も進めており、光熱費の削減と環境負荷の低減を両立する住まいを提供しています。
こうした取り組みは、お客様の光熱費負担を抑えると同時に、地球環境にも貢献できると考えております。
一方、アセットソリューション事業では、投資家の皆さまを主なターゲットに、新築賃貸マンションの開発・販売や、中古マンション・ビルのリノベーション、用途転換などを手掛けています。
住まいづくりで培ったノウハウを投資用不動産の分野に応用し、資産価値を高める提案を行うのが大きな特徴です。
さらに、宿泊事業にも挑戦しています。
ここでは当社の不動産開発力と、グループ会社ハウスバードが持つホスピタリティや運営ノウハウ、マーケティング力を掛け合わせ、「Hours House」ブランドなどの協業プロジェクトを進行中です。
居住用と投資用、そして宿泊施設という三本柱で事業領域を広げることで、お客様に新たな価値をお届けしたいと考えています。

事業における優位性
真のワンストップ体制を追求
住宅業界では「自社一貫体制」を掲げる企業が多いものの、用地仕入れから設計・施工、販売、アフターサービスまでを本当に自社だけで担う会社はごくわずかです。
私の知る限り、完全に自前で完結しているのは数社しかありません。
たいていは販売を外部に委ねていたり、設計や施工を外部に委託しており、そこに限界も見えます。
もちろん自社で施工チームを抱えると、着工が平準化できない時期に人員が遊んでしまうリスクがあります。
それでも私たちは、設計と施工を内製化する意義が大きいと考えています。
営業が伺ったお客様のご要望を単に図面に落とし込むだけでなく、プロとして取捨選択し、より良い形に練り上げてご提案できるからです。
構造面にも目を向けなければなりません。
たとえば中庭を中心に配置する「コートハウス」は見た目も美しく採光に優れている反面、構造上の耐力の確保が欠かせません。
著名な建築家が描いたプランであっても、そのまま施工できない場合も多いですし、施工の視点で詳細を検討しないと耐久性を損ねることもあり得ます。
自社に設計部門があれば、技術者が細部を検証し、必要に応じて図面を描き直しながら理想的なバランスを追求できます。
前職では、外部へ丸ごと施工を委ねた結果、完成直後は見栄えが良くても、後々大きな問題が発覚するケースを数多く目にしました。
その経験があるからこそ、設計と施工を一貫管理し、見た目だけでなく機能や耐久性まで確保した住まいをお届けしたいと考えています。
施工品質と並んで重要なのがコスト面です。
「本来1,000万円かかる工事を900万円で」といった無理な発注が下請けに及ぶと、どれほど知名度の高い会社でも品質低下を避けられません。
私たちは下請け構造に頼り切らず、自分たちの責任で品質を担保する体制を築きました。
さらに販売力も一貫体制の要です。
施工と販売の進捗が噛み合わないと、現場が止まり、人員も暇を持て余してしまいます。
そこで社内全体で「施工と販売の平準化」を徹底し、ようやく均衡が取れる仕組みが整い始めました。
ワンストップ体制の構築は難易度が高い分、大きな競争優位性をもたらします。
今後もこの仕組みに磨きをかけ、質の高い住まいを適正な価格でお届けできる企業であり続けたいと考えています。
お客様の期待に応えるために
当社がお客様として主にお迎えしているのは、上場企業で課長職を務める方など、いわゆるミドルアッパー層の方々です。
住宅の平均購入価格も創業当初は5,000万円台でしたが、現在では8,000万円近くまで高まっています。
多くの方が住宅ローンを組んで大きな決断をされるからこそ、私たちは期待を超える価値を提供しなければなりません。
そこで今、特に注力しているのが「体験価値」の向上です。
ご購入の瞬間だけでなく、暮らし始めてからも長くご満足いただける住まいをつくることが目標となっています。
住んでからの安心と喜びが続けば、お客様との関係は深まり、結果として生涯価値も高まります。
これは企業としての持続的な成長にもつながると考えています。
累計施工棟数は3,000棟を超えました。
今後さらに実績が増えるなかで、単なるアフターサービスではなく、様々なサービスを提供し、末永くご安心いただける体制を整えてまいります。

アグレ都市デザインの成長戦略
既存事業と新規事業の成長
まずは祖業であるハウジング事業に、これからも軸足を置く方針です。
この分野で、もう一歩踏み込めばさらに強い競争優位性を築ける手応えがあります。
最近では大手デベロッパーさまから「設計と施工だけでもお願いできないか」というお声がけをいただくことも増えましたが、現段階ではお受けしていません。
下請けという立場では当社らしさを発揮しづらく、意味が薄れてしまうからです。
いずれ「すべて任せたい」と正式にご依頼をいただくような存在感を確立したいと考えています。
こうした実績の積み重ねこそが、競争優位を形づくると信じています。
ただ、日本全体の住宅市場は縮小傾向にあります。
年間着工数はかつて186万戸に達していましたが、今では90万戸を下回り、さらに減少する見通しです。
しかし都市部—とりわけ一都三県では需要が比較的堅調です。
当社の年間棟数は約300棟、シェアにすれば0.5%強ですから、たとえ全体のパイが縮んでも、他社からシェアを奪い取る余地は大きいと見ています。
ハウジング事業で毎年10%ほどの着実な成長を続ける計画は、十分に現実的だと判断しています。
ハウジングの強化は、新分野にも波及します。
不動産情報を提供してくださる取引先との関係が深まり、より良質な案件が集まる好循環が生まれるからです。
こうしたネットワークをどう生かすかが、次の成長を左右します。
一方、宿泊事業の収益基盤はコンサルティング収入によるものでした。
今後は「運営力」を強化していく構想を描いています。
当社のデベロッパー機能やノウハウを投じることで、差別化された宿泊施設を生み出せるのではないか、と期待しています。
まだ見極め段階ではあるものの、手応えを感じています。
定量的な目標としては、中期経営計画のベースラインに売上500億円を掲げています。
これはあくまで足場であり、事業間のシナジーが本格的に発現すれば、成長角度はさらに高まり1000億円の売上も視野に入ってくると考えています。

M&Aによる非連続な成長
新たな成長エンジンとして最も注目しているのがM&Aです。
直近では宿泊施設コンサルティングを手がけるハウスバード社をグループに迎えました。
同社はコンサル業務が中心のため売上規模は小さく、連結のトップラインに与える影響は限定的です。
それでも、当社の理念に共鳴してくださる企業であれば、規模にかかわらず積極的にパートナーシップを検討したいと考えています。
理念は事業の土台であり、そこを曲げてまで拡大を急ぐことはいたしません。
不動産業界は「金儲け主義」という先入観を持たれることもありますが、実際には誠実な企業が数多く存在します。
そうした会社の経営者の方々から「社員の将来や企業文化を守りたい」という真摯な思いを伺う機会も増えました。
売却理由は各社それぞれですが、単に高い価格で手放したいわけではなく、社員の幸せや事業の継続性を重視されるケースも多くあられます。
当社としても、そうした価値観を共有できる企業と組むことで、新しい成長のかたちを共創できると信じています。
今後も理念を軸に据えながら、M&Aを通じて事業基盤を広げ、グループシナジーを最大化してまいります。
私たちの挑戦にご期待いただければ幸いです。

事業を支える人材戦略
創業期は、土地の仕入れを担う精鋭をはじめ、設計や施工に長けた少人数のメンバーが集い、わずか5、6人でも十分に利益を上げられるほどのパフォーマンスを発揮していました。
しかし、限られた人員だけで走り続けても事業は広がりません。
創業以来、中途と新卒の採用にも積極的に取り組みながら、組織の厚みを増すことに力を注いでいます。
人が増えるほど能力のばらつきは避けられませんが、その分だけ新しい可能性が広がると考えています。
新卒採用が難しいと言われる時代でも、私たちは新卒と中途の両面で採用を進め、現場で鍛える OJT を基本としています。
大切にしているのは「私たちは何のために存在しているのか」というパーパスの共有です。
お客様の期待に応えるという目的を明確にすれば、自ずと自分の役割が見えてくると考えています。
社員のキャリア志向は多様です。
設計のプロフェッショナルとして腕を磨き続けたい人もいれば、開発や経営まで視野を広げたい人もいます。
当社はそうした多様な選択肢を尊重し、専門を極める道と領域を越えて挑戦する道の両方を用意しています。
互いの強みを認め合いながら学び合える環境を整えることで、組織はさらに強くしなやかになれると確信しています。
注目していただきたいポイント
私たちが属する住宅・不動産業界は、どうしても株価収益率(PER)が低めに評価される傾向があります。
確かに急成長を遂げる企業も存在しますが、それは収益拡大の結果であって、必ずしも高いPERを獲得しているわけではありません。
当社は、派手な成長曲線よりも、理念を守りながら地道に歩む姿勢を大切にしています。ローリスクで持続的な成長を志向し、数年先に「あのときアグレを選んで良かった」と感じていただける企業を目指しております。
もう一つ注目していただきたいのが、仕入れから設計・施工、販売、アフターサービスに至るまでを自社グループで完結させる真のワンストップ体制です。
この仕組みはサービス品質の均質化やコスト管理を徹底できるだけでなく、お客様の満足度向上にも直結します。
私たちは、この体制にさらに磨きをかけることで企業価値をいっそう高められると確信しています。
派手さはなくとも、理念と自社一貫体制を土台に着実な歩みを続ける当社の本質に目を向けていただければ幸いです。
投資家の皆様へメッセージ
私たちは派手な成長ストーリーを語る会社ではありません。
それでも、創業以来守り続けてきた理念と、仕入れからアフターサービスまで自社で担う一貫体制には大きな価値が宿ると信じています。
建売住宅は「ただ建てて売るだけ」と見られがちですが、私たちは暮らしを支える器としての意味を一棟一棟に込めてきました。
その想いに共感してくださる方にとって、当社は十分魅力的な投資先になれると考えております。
もちろん資本市場では、理念や共感だけでは測れない側面もあります。
それでも「アグレを応援したい」と感じてくださる個人投資家が増えることは、私たちにとって大きな力です。
住宅事業に加え、投資用物件や宿泊事業にも領域を広げました。
政府が掲げる訪日客の倍増目標に呼応し、私たちも新たな宿泊体験を提供できるよう取り組んでいます。
さらに、これまで、首都圏の新築中心であったビジネスモデルから、地方の活性化や中古住宅の再生など、社会に役立つ分野にも積極的に取り組む計画です。
「一生懸命に価値を届けようとする姿勢を応援したい」と感じていただける皆さまと、ともに歩めれば幸いです。
アグレ都市デザイン株式会社
本社所在地:〒163-0231 東京都新宿区西新宿2丁目6番1号 新宿住友ビル31階
設立:2009年4月1日
資本金:390,717,000円(2025年3月末時点)
上場市場:東証スタンダード市場(2016年3月18日上場)
証券コード:3467